28才の初恋

――正直なところ、気持ちが揺らぐ。

　大樹クンと離れるのは絶対に嫌なのだが……それでも自分の力を試してみたい、という思いも否定できない。
　それに、今の会社にも多少なりとも愛着というものを持っている。
　報酬が良いからといって、すぐに他の会社に移るというのも自分の中の道義的な部分に引っ掛かりを感じるのだ。

　しかし、後者に対するわだかまりは、専務の勧誘の説得によってスグに解消されてしまう。

「なに、心配することは無いよ。この会社はウチの会社の関連会社として設立することになる。会社を移るからといって、裏切りのようなことには絶対にならないんだからね」

　心配の一部を見透かすように、専務は私を口説いてくる。
　会社を移りたくない理由はそれだけではないのだが……そう思いながらも、専務からの説得に気持ちはますます揺らぐ。

……この話、受けるべきなのだろうか？