28才の初恋
 夕方を過ぎ、夜も近くなった鴨川には涼やかな風が吹き抜ける。
 元来、盆地である京都の夏は暑く、日中は身体の水分が奪われていくのが実感できる程の熱気が襲う。
 それだけに、川べりである鴨川の河川敷は太陽がその姿を隠す夕刻になると別天地であるような涼感を含む風が爽やかに全身を撫でて行く。

 まあ、普段より一層涼しく感じる原因は『河川敷にナゾの生命体が出没した』という噂が一気に駆け巡り、カップルが軒並み川辺から退避してしまったからなのだが……まさか機動隊まで出動するとは思わなかった。

 きーちゃんをヌーブラにして胸にしまい込み、私も『ナゾの生命体』を目撃した人間を装うことでコト無きを得て、騒ぎのあった出町柳から四条に向けて涼感を楽しみながら歩いているわけである。

 慌てふためいて、パニックに陥るカップルの群れを観察するのはそれなりに楽しかったのだが、悩みを忘れたのはほんの一瞬で。スグにまた悩みは私の頭に帰ってきた――。
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