28才の初恋
「ふう……来るはず……無いよね」

 バッグマンの前にあるコンクリートで出来た円柱にもたれかかりながら、私は独り言を呟いた。

 時計は午後七時半を指している。
 帰省中であるならば、大樹クンは今頃は実家で晩御飯でも食べている頃であろうか?
 ひょっとすると、私からのメールすらまだ見ていないのかも知れない。
 そんな不安が私の中に生まれる。

 しかし、私はカバンの中に入っている携帯を一度も取り出して確認をしていなかった。
 勝手な思い込みではあるが、大樹クンと……私たちの運命を信じてみたかったのだ。

 携帯を確認して、そこに大樹クンからの応答が何も無いことを確認してしまったら――運命のようなものが途切れてしまうような気がして。
 ひょっとすると、大樹クンからメールの返信や電話の着信があったのかもしれない。

 そう思ってみるが、それでも私は携帯を取り出さない……願掛けのようなものだ。
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