28才の初恋
「ふぅ……」

 ため息と共に、私は円柱にもたれかかったまま腰を降ろした。
 そのまま時計へと視線を移す。
 時刻は既に午後八時を指していた――。

――やっぱり、そんな都合の良いことが起きるわけもないか。

 少し冷静になった頭でそんなことを思う。
 我ながらこんな場所まで来て、何をやっているのだろうと思う。
 大体、ハッキリとした待ち合わせ場所も、時間さえも告げずに一方的に待っているのだ。
 もしも大樹クンがここに来たら――それこそ奇跡のようなものだ。

――大樹クンに謝りの連絡を入れておこう。

 私からのメールを、既に見ていたとしても、まだ見ていなかったとしても。
 このメールを見れば、きっと大樹クンは混乱してしまうに違いない。

 そう思いながら、携帯を取り出す――。
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