28才の初恋
「ああ、今日は一本だけ早いのに乗ったんです」

 大樹クンの回答は明瞭なものだった。
 今日から外回りを始めるので、いつもよりも一本早い電車に乗ったらしい。

 ということは……これからは毎日同じ電車に乗れるということか?
 降って湧いたような幸運に、満員電車でなければきっとこの場で踊りだしていただろう。

(ヨシっ!!)

 心の中で小さく叫んでガッツポーズをとる。
 真横にいるメタボなオジサンが「ウッ……」という小さいうめき声を出した。
 私のヒジが、ガッツポーズを決めた際にオジサンの脇腹を直撃していたようだ。
 
――まあ、よくある事故ってことで……ね?
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