28才の初恋
「初めまして。大阪支社より転勤してきました、池田 大樹です。まだ不慣れな点もありますので、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが。よろしくお願いします」

 王子様が……じゃなくて。
 池田くんが一歩前に進んで自己紹介を始めた。
 それだけで、私は身も心もトロけそうになっている。

 声が!声までが素晴らしい!!
 今までに聞いたことのある、どの歌手よりも透き通ったような美声である。
 耳に染み込むような。そのまま脳髄まで浸透して、老化した脳細胞を若返らせる効果があるんじゃないか、そう思えるほどに美しい声である。

 って……感動してる場合じゃない!

 新人が挨拶をしたのだ。
 こちらも代表として私が挨拶をしなければ!!
 新人の王子様……じゃなくて、池田くんの前に一歩進み、喉の調子を整えるために小さく咳払いを一つしてから……一言。

「ハ、はじめまシてぇっっ!!」

――いきなり声が裏返った……。軽く、穴があれば入りたい。
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