アプリーレ京町、へようこそ
「えっと、2つ目の角を右に曲がるんだよな...?で、目印がポストで」
うん、ちゃんと合ってる。駅からここまでの道は間違ってない。ようやく辿り着いた。俺の、念願のーー
公園に。
夢だった大学生の一人暮らし。それが今やっと始まろうとしている。
この、公園で。
(って何でだあああ!!)
何で?何でゴール地点ここなの?いや全く意味不明だよ、うん。
(嘘だろ...?)
俺は手元の地図を再確認する。これは俺がアパートの入居手続きの際にっておっちゃんがわざわざ描いてくれたものなんだけど。いや確かに小学生が描くような絵ではあるし、何でかしらないけど所々に雲とか花とか描きこまれてるのが不安ではあったけどさ!...でもやっぱりそこは見知らぬ土地。そしておっちゃんの心遣いをありがたく思って俺はそれを受け取ったんだ。...カムバーック!!あのときの俺!
「...はぁ」
とりあえず心の中で叫んでもしょうがない。もういいや、マップで検索しよう...。
そうして携帯を開いた俺は戦慄する。
「な...ッ、充電が...残り3、パーだと...?!」
画面右上の充電残量はなんと非常にも真っ赤を示していた。
(しまった、新居が嬉しすぎてLINE、Twitterしまくったんだった...。俺のバカっ...!)
ただでさえ昨日は出発前なのにバタバタして、うっかり充電し忘れてたのに。これじゃマップ見ながらアパートに行く前に充電が切れる。
(道のりを記憶するか? ...いや、でもこの場所がアパートとものすごく離れてたら地図暗記するのは結構大変だよな...)
う、どうしよう俺。まさか新居に住むどころか着くのが問題だなんて予想外すぎた。
「...はぁー...」
俺はスーツケースをガラゴロと引きながら公園に入った。とりあえずベンチに座る。
春の陽気に包まれた、昼間の公園はとても暖かい。あちこちにタンポポやシロツメクサが花を咲かせている。端の方では、俺と同じくらいの男が1人、バスケの練習をしている。
こんな状況じゃなければうたた寝でもしていたい気持ちよさだけど。そうはいかない、これからどうするか考えなきゃ。じゃないと日が暮れてしまう。
(もう一か八かで不動産屋に聞いてみよう...。3%で会話を全て終わらせるんだ、俺ならできる!頑張れ俺!)
ゆっくり深呼吸。スマホの画面をタップする。
俺のコミュ力が、いよいよ試される時がーー
『はい、もしもし』
「あ、あのっ。この前そちらの物件を紹介してもらった安田といいますけどっ」
『あ、ハイハイ。...ん、安田?あ、あーあのチビな学生さん?おー元気?あのアパートどう、結構いいでしょー』
(チビ?!いきなりチビ?!ちょ、客に対する対応じゃ...。い、いやいやここは落ち着け俺!充電が3%の今、ここで不要な会話をしてはいけない!)
「あっ、あのっ!俺、わざわざ地図描いていただいたんですけど、なんか正しくなかったみたいで」
『え、あっそうですか!それは申し訳ございません!...えっ、てことは安田さん、今...』
「え?」
『道、分からないんですよね。それって...ま』
(言うな!言わないでください!俺はその単語を認めたくない!)
『まいg』
「迷子ですうううう!!!」
......ああ...。
...ってうわ!男の人めっちゃこっち見てるじゃん!聞こえたかな?!変な人と思われただろうか...。
(げ、マズイ、早くも充電が残り2%に...)
「そ、そうなんです。それで、もう一回道を教えてもらいたくて」
『あー、なるほどそういうことでしたか。すいませんねぇ、今すぐ調べますんで。アパート名何でしたっけ?』
「アプリーレ京町です」
『え?あ、なんだか最近耳が遠くなってー。申し訳ありません、もう一回よろしいですか』
「...アプリーレ京町です」
『......ちょっと!田中クン!今お客様と電話中だからね、静かにっ!.......あー、コホンコホン、えーっと、それですいませんねぇ、もう一度...』
「アプリーレ京町ですうう!!」
......ああ...。
...しまった、また男の人に見られてる。俺は急いで彼に背中を向けた。
『あーハイハイ、アプリーレ京町ねー、えーっと、チョット待って下さいよ...』
う、残り2%いつまで持つだろうか。この様子だとおっちゃんが光の速さで喋らないと無理な気が...。
『アプリーレ、アプリーレ。あ、ありましたありました!駅からもう一回説明しますよー、まず交差点を左にー』
お、間に合う? そう思いかけたとき、
ガシッ!
「...え?」
思わず顔を上げる。目の前には先程までバスケの練習をしていたはずの男。その男に、俺はなぜか腕を掴まれていた。
「...あの、ってちょ、わっ!」
何ですか、と聞くより早くぐいっと腕を引かれ、俺は勢いでベンチから立ち上がりつんのめって転びそうになった。
え、何。何が起きてるの。この人は誰。何で俺は引っ張られてるの。
突然の出来事に俺の頭はついていけず、ただ引きずられるだけになる。
「あ、あのっちょちょっと」
大股の男に半ば駆け足気味でついていく俺の問いに、聞こえているのかいないのか奴は答えない。
『もしもーし、安田さん?大丈夫ですか?』
握りっぱなしの携帯から聞こえる小さな声にハッとなる。
「あっすいませんっ!えっと、ちょっと今あのっ」
『もう一回言いましょうかー?』
「あ、え、どうしよう。あ、あ、えーと、じゃあお願いし」
その言葉を言い終わらないうちに、プーッ、と音が鳴り、そしてすぐに通話が切れた。
(充電...切れた...)
よりによってこのタイミングで。
(何なんだよっ...。そしてこいつは誰なんだ...?ってか俺はどこに連れていかれるの?!)
ずんずん、と腕を引っ張っていく背中を見つめつつ、俺は公園を後にしたのだった。
うん、ちゃんと合ってる。駅からここまでの道は間違ってない。ようやく辿り着いた。俺の、念願のーー
公園に。
夢だった大学生の一人暮らし。それが今やっと始まろうとしている。
この、公園で。
(って何でだあああ!!)
何で?何でゴール地点ここなの?いや全く意味不明だよ、うん。
(嘘だろ...?)
俺は手元の地図を再確認する。これは俺がアパートの入居手続きの際にっておっちゃんがわざわざ描いてくれたものなんだけど。いや確かに小学生が描くような絵ではあるし、何でかしらないけど所々に雲とか花とか描きこまれてるのが不安ではあったけどさ!...でもやっぱりそこは見知らぬ土地。そしておっちゃんの心遣いをありがたく思って俺はそれを受け取ったんだ。...カムバーック!!あのときの俺!
「...はぁ」
とりあえず心の中で叫んでもしょうがない。もういいや、マップで検索しよう...。
そうして携帯を開いた俺は戦慄する。
「な...ッ、充電が...残り3、パーだと...?!」
画面右上の充電残量はなんと非常にも真っ赤を示していた。
(しまった、新居が嬉しすぎてLINE、Twitterしまくったんだった...。俺のバカっ...!)
ただでさえ昨日は出発前なのにバタバタして、うっかり充電し忘れてたのに。これじゃマップ見ながらアパートに行く前に充電が切れる。
(道のりを記憶するか? ...いや、でもこの場所がアパートとものすごく離れてたら地図暗記するのは結構大変だよな...)
う、どうしよう俺。まさか新居に住むどころか着くのが問題だなんて予想外すぎた。
「...はぁー...」
俺はスーツケースをガラゴロと引きながら公園に入った。とりあえずベンチに座る。
春の陽気に包まれた、昼間の公園はとても暖かい。あちこちにタンポポやシロツメクサが花を咲かせている。端の方では、俺と同じくらいの男が1人、バスケの練習をしている。
こんな状況じゃなければうたた寝でもしていたい気持ちよさだけど。そうはいかない、これからどうするか考えなきゃ。じゃないと日が暮れてしまう。
(もう一か八かで不動産屋に聞いてみよう...。3%で会話を全て終わらせるんだ、俺ならできる!頑張れ俺!)
ゆっくり深呼吸。スマホの画面をタップする。
俺のコミュ力が、いよいよ試される時がーー
『はい、もしもし』
「あ、あのっ。この前そちらの物件を紹介してもらった安田といいますけどっ」
『あ、ハイハイ。...ん、安田?あ、あーあのチビな学生さん?おー元気?あのアパートどう、結構いいでしょー』
(チビ?!いきなりチビ?!ちょ、客に対する対応じゃ...。い、いやいやここは落ち着け俺!充電が3%の今、ここで不要な会話をしてはいけない!)
「あっ、あのっ!俺、わざわざ地図描いていただいたんですけど、なんか正しくなかったみたいで」
『え、あっそうですか!それは申し訳ございません!...えっ、てことは安田さん、今...』
「え?」
『道、分からないんですよね。それって...ま』
(言うな!言わないでください!俺はその単語を認めたくない!)
『まいg』
「迷子ですうううう!!!」
......ああ...。
...ってうわ!男の人めっちゃこっち見てるじゃん!聞こえたかな?!変な人と思われただろうか...。
(げ、マズイ、早くも充電が残り2%に...)
「そ、そうなんです。それで、もう一回道を教えてもらいたくて」
『あー、なるほどそういうことでしたか。すいませんねぇ、今すぐ調べますんで。アパート名何でしたっけ?』
「アプリーレ京町です」
『え?あ、なんだか最近耳が遠くなってー。申し訳ありません、もう一回よろしいですか』
「...アプリーレ京町です」
『......ちょっと!田中クン!今お客様と電話中だからね、静かにっ!.......あー、コホンコホン、えーっと、それですいませんねぇ、もう一度...』
「アプリーレ京町ですうう!!」
......ああ...。
...しまった、また男の人に見られてる。俺は急いで彼に背中を向けた。
『あーハイハイ、アプリーレ京町ねー、えーっと、チョット待って下さいよ...』
う、残り2%いつまで持つだろうか。この様子だとおっちゃんが光の速さで喋らないと無理な気が...。
『アプリーレ、アプリーレ。あ、ありましたありました!駅からもう一回説明しますよー、まず交差点を左にー』
お、間に合う? そう思いかけたとき、
ガシッ!
「...え?」
思わず顔を上げる。目の前には先程までバスケの練習をしていたはずの男。その男に、俺はなぜか腕を掴まれていた。
「...あの、ってちょ、わっ!」
何ですか、と聞くより早くぐいっと腕を引かれ、俺は勢いでベンチから立ち上がりつんのめって転びそうになった。
え、何。何が起きてるの。この人は誰。何で俺は引っ張られてるの。
突然の出来事に俺の頭はついていけず、ただ引きずられるだけになる。
「あ、あのっちょちょっと」
大股の男に半ば駆け足気味でついていく俺の問いに、聞こえているのかいないのか奴は答えない。
『もしもーし、安田さん?大丈夫ですか?』
握りっぱなしの携帯から聞こえる小さな声にハッとなる。
「あっすいませんっ!えっと、ちょっと今あのっ」
『もう一回言いましょうかー?』
「あ、え、どうしよう。あ、あ、えーと、じゃあお願いし」
その言葉を言い終わらないうちに、プーッ、と音が鳴り、そしてすぐに通話が切れた。
(充電...切れた...)
よりによってこのタイミングで。
(何なんだよっ...。そしてこいつは誰なんだ...?ってか俺はどこに連れていかれるの?!)
ずんずん、と腕を引っ張っていく背中を見つめつつ、俺は公園を後にしたのだった。