働き者の彼女は臆病者
別々の高校に進学したといっても、田舎の高校だ。
そんなに離れた距離にいるわけでもない。
共通の友達も何人かいる。
話題に困ることはなかった。
そして、見るからに真面目な拓巳と実は根が真面目な多恵は、
律儀に必ず返信する性格。
それ故かメールのやり取りは毎日続いた。
「今日、仲良くなった○○ちゃんが西山中学出身で〜」
そんな何気ない内容のメール。

そうして、多恵と拓巳にとって毎日お互いの1日の出来事を報告するのが
当たり前になっていった。

少し返信が遅いと違和感を感じる。
そして、その後来るメールは必ず、
『遅くなってごめんね』の一言が添えられていた。
多恵も、同じだった。
2人にとって、当たり前のやり取り。
それが自然と恋愛に変わったのは卒業してから約2ヶ月後のことだった。


多恵は、周りのことには敏感で勘も鋭く、
幼い頃から誰が誰に気があるか気づくことは早かった。

一方で、自分に対してはとことん鈍感。
相手がたとえ自分に好意を持って、
そんな素振りを見せて来ても、
大抵は気づくこともなかった。

元々男勝りな性格。
幼い頃から女の子扱いを同世代に殆どされる事はなかった。
「お前、男みたいだな。」
そんな事ばかり言われてきた。
「可愛いね。」
「女の子らしいね。」
そう言われると逆にどんな顔をすればいいのかも分からない。

好きな人が出来た時も、
嫌われたくない。
だったら友達でいよう。

恋愛なんて自分には関係ない。
仮に意識して、そうじゃなかった時に傷つく自分。
そんな自分を想像したら急に臆病になった。
変に期待するより鈍感でいる方が傷つかなくて済んだ。
多恵自身が自分を鈍感にしてしまったのだ。


そうやって過ごして来た数年。
多恵は、男性が自分を恋愛対象に見ることなど無い
と思い込む事で自分を守ってきた。
それ故、拓巳の誰もが分かるアプローチにも気づくことなかった。
意識するようになったのは、周りに強く言われ初めてからだ。
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