働き者の彼女は臆病者
高校入学して間もなくある宿泊訓練。
山間部に行って、テント生活をしながら自炊し、
周囲とのコミュニケーションを高める行事である。
夜になると、男子が女子のテントにこっそり絡みに行ったり、
いい感じの男女が抜け出したり、
中学時代の彼氏彼女がいる者は、
電話したり。
多恵も、そんな周りを見て
「いいなぁ。」
と羨ましさと、寂しさを感じていた。


そんな時に、毎日やり取りしてる拓巳に、
その気持ちを自然とメールしていた。
『皆、彼氏とメールとか電話しててなんかいいなーって思っちゃったよ。
寂しいもんだね(笑)』
拓巳から返って来たのメールは、
『俺が電話するよ』
一瞬、戸惑った。
(からかってんのか?からかってるに違いない。)
そう思った多恵は、
『なんでよ(笑)わざわざ、そんなことしてくれなくていいよ(笑)』
と、流しそうとしてみた。
すると、すぐ着信が。
拓巳からだ。
実は、毎日メールでやり取りはしていたものの、
電話をかけて話した事は今までなかった。
突然の着信に驚きながらも、電話を取る多恵。

「も、もしもし…どしたの?電話…」
ぎこちなく電話に出た多恵。
「いや、寂しいって言ってたから。だから電話した(笑)」
と、半ば笑いながら話す拓巳。
その声のトーンと言葉に、
多恵はなんだか心が温かくなった。
そして、ふっと笑いがこぼれた。

「いや、だからってなんで拓ちゃんが電話してくんの(笑)」
「だって、多恵が寂しいって言うから(笑)ただそれだけ!
これで寂しくなくなったでしょ?(笑)
そっちどんな感じなの?俺の高校は来週なんだよなー。」
無邪気な拓巳の声。

中学時代、彼はこんな明るく話しかけて来たことはあっただろうか。
自分の知ってる今までの拓巳とは違う拓巳。
そんな今までとは違う拓巳に、
少し驚きながらも前より少し距離が近くなった気がした。

「ありがとう。なんか、電話してくれて嬉しかったよ。」
普段、こんな言葉など言わない素直じゃない性格だが、
この時は違った。
臆病で意地っ張りな多恵も、
この時から素直に気持ちをぶつけてくる拓巳に次第に心を開くようになっていった。
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