セカイカクメイ
顔を上げると、場違いな服装をしたツインテールの少女が電柱の天辺に座っていた。
「まぁ名前なんて元々ないんだけどね。てか論点はそこじゃないっつーの」
「お前は何だ…?」
すると其奴は俺の前にひらりと降りてきた。本能で解る。こいつは人でも妖でもない。
未知の存在は恐怖としかなり得ない。恐怖は本能によって敵意へと変換され、目の前の奴を敵と認識する。
「そんな怖がらなくてもいいのになー。君に危害を加える気は無いし、私がこれからするのは君を救う事だよ」
「お前は何だと聞いているんだ。隠す様なら怪しさと疑いを増幅させるだけだぞ」
「あー悪い悪い。私はね、人が憧れ、縋り、祈る対象であり、君達に最も近い存在さ。…君なら知っているはずなんだけどな」
「なっ……!!?」
----------神
俺はすぐ分かった。こいつの正体を俺は知っていた。俺がまだ今より幼かった時、妖殺しの老人に教わった。妖は神の“犬”なのだと。
「俺をどう利用するつもりだ。半妖の俺に託すより有効な手があるんじゃないのか」
「へぇ…。なんだ、色々知ってんじゃん。でもハズレ。君を利用する気は全くないね」
「なら何だ」
「さっきも言ったじゃーん、“君を救う”って。君、“夢”が見られないんでしょ?」
「お前…なぜそれを…?」
「私は神様だよ?それぐらい分からなくてやってられないっつの。分かったとなれば、その願い、叶えないわけにはいかないでしょ?だって、神様だもん」
こいつが言っていることは本当らしいが、本心から言っているとは思えない。
信用なんて、できるわけが無い。
「だから、夢をみせてあげるよ。繰磨くん」
得意気に笑いかけて、俺を試す様に手を伸ばして奴は言う。
「期待はしねぇよ」
何かが起きそうで、少しわくわくしたのも本心だった。
「ええっ、あんた学校行ってんの?」
「なんか文句あるかよ」
あのあとこいつを家に連れて帰り、ひとまず眠りについた。
朝起きた途端に質問攻めにされ、めんどくさいので早々に学校へ行ってしまおうと思ったのだ。
「大丈夫なの?バレないの?」
「別の妖がいない限り大丈夫じゃねぇの。って!…お前ついてくんのか!?」
「え?当たり前じゃん。あんたに取り憑いてんだもん。夢を見せるのはそれぐらい大変なんですぅー」
「ちっ…来るならバレないように来い」
「もち!姿は妖にしか見えないようにするから!」
そんなこんなで学校へと向かう。周りに人はいないし、俺からも質問することにした。
「夢を見れたら俺は何から救われるんだよ。昨日の夜は面白半分で話に乗ってやったけど、まさか取り憑くとは思わなかったし」
「えぇー、そんなの私も分からないよ。とりあえず今よりはマシな暮らしになるんじゃない?つべこべ言わずに夢見せられとけって!」
納得も合点もクソもあったもんじゃない。こんな人間臭いやつが神様であること自体が胡散臭い。溜息をついて、そういえば生徒会に勧誘されていたのだと思い出した。
「お前、俺が生徒会に入っても問題ないと思うか?」
「へ?さぁ?別になんともないんじゃないの?」
「そうか。なら入るか」
「ええっ!?いいの?まぁ確かに面白そうだけどねー」
「お前そろそろ黙れ。此処は校門だ。生徒が近くにいるはずだぞ」
いくら早いとはいえ、誰もいない事は否めない。
だが俺は、この時の選択が〝全て〟を変えてしまうことにだけに、気付けないでいたのだ。