硝子の靴に口付けを


あるところに一人の男がおりました。


この男は大層屁理屈な性格で、太陽が西に沈めば「あれは朝日さ!何故なら俺は今起きたんだ。間違いない。」と声高らかに喚き、これは犬だと村人たちが言い聞かせても「犬なもんか!犬とは番人のように周りを睨みつけて不審者部外者に吠えまくるもんだ!それがどうだ。この犬は人間なんかに目もくれず、ただ惰眠を貪るばかり!こいつは間違いなく猫だ!」と村人たちに当たり散らした。


男は屁理屈で強情な性格でもあったのです。




さて、ある日のことでした。

男は朝早く起き、畑仕事に勤しんだ後、昼に柔らかなパンとバター、温かなミルクにヤギの肉とみずみずしいレタスの葉を食べ、午後は木陰で読書を楽しみました。



太陽が地平線に半分ほど隠れた時のことです。男が寄りかかっていた木の上の方から、低い響くようなうめき声が聞こえてきました。
男は驚いて立ち上がり、恐る恐るその声の主を探しました。
するとそこには、目を細めまるで三日月のような口をした虎猫がいました。


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