帰ってきたライオン
そんなことできない。
迷惑じゃないかとか、送ってもいらないとか言われたら嫌だし、切ない。
そんなことを考えるとどうしても行動には起こせない。
そう考えるとグリーンさんはかなりぐいぐい来ていると思う。
これが日本人と外国人の違いか。
「あれ?」
「どうしたの?」
「これ、羊さんにもCCってますね」
「ほんと? うわ、すごすぎる」
「確かに」
同じ内容を羊君にも送っていた。
私だけじゃなく羊君にも送るというこの用意周到なやり方は私の頭にはなかった。
携帯のLINEをチラッと確認した。
羊君、まだ既読になっていない。
何やってるんだろう、金曜日の夜にまったくもって連絡をしてこない羊君のことを考えるとなんともいえない膜の張った空気になる。
「とりあえず、つまみでも作りますか」
「つまみ?」
「天気予報によると今夜から雨風すごくなるみたいなので、9時から成田さんの好きそうな映画もやりますし、気持ち切り替えてせっかくなので金曜日を楽しみましょう」
「そうだね。考えてもこれ、答え出なそうだもん」
「そういうことです」
言いながらパソコンを閉じ、テレビをつけて両掌をひとつ打ち、「よっ」と掛け声ひとつ、鼻唄混じりに台所へ向かって行った。
習慣となるとそれが普通になるものだ。
松田氏が台所へ立つと、私はこたつの上を拭き、こたつの上にあるペンとか本とかお菓子とかコーヒーカップとかの余計なものをテレビ台の上へちょこっと寄せ、みかんの籠だけを真ん中に置く。
「コーヒーカップ持ってきてください」
「はーい」
せっかくテレビ台の横に置いたコーヒーカップを持って台所へ移動し、「何か持っていくものある?」と聞く。「特に無いですよ。テレビでも見ていてください」と返ってくる。
これももう挨拶のようになっている。