帰ってきたライオン
『おばけが出るから家には帰れません』
胸を張られてそう言われましても私も困るというもので。
そもそも私はあなたのママじゃない。
上乗せして言えば、君はただの後輩でしかない。
よって、仕事上の関係でして、会社を一歩、いや、つま先一ミリ出たらもう関わりはないはず。
だった。
「今日の焼き魚、超絶ヤバいと思います♪」
いるんだなこれが。
なぜだかここにでっかいねずみ……いや、大きな男が一人、居座ってやがる。
身長180、のわりにはもやしのように白くて細っこい。
からの、おばけが見えるという特技つき。
「あの魚屋さんの魚、まじで日本で捕れたんですかね? 脂ののり半端ないですよ」
「いや、うん、松田氏ね、もうそういう、なんてーの、料理系に転職とかしたら?」
「やっぱそう思います? 才能あるんですかね俺まじで。ははは」
言っても魚に罪は少しもないので美味しく頂く。
確かに脂のり、半端ない。
というわけでこの嫌味の通じない男。
冒頭の理不尽きわまりない理由により松田木星はかれこれ1週間ほど前からうちにいる。
私は彼を社外では『松田氏』と呼ぶ。
とはいえ、うちは狭い。
古い木造の1DKのアパートに二人の人間が住めるかこのやろう的な感じで、松田氏には台所で生活をしてもらっている。
ぴしゃり。
と、台所と部屋との仕切り戸を閉めるといつも通りのもんくが聞こえる。
が、無視。