帰ってきたライオン
焼き鳥屋さんにいる。
隣近所からもくもくと煙が上がり、視界は良好とは言いにくいが客はところ狭しとぎゅうぎゅうに詰まっている。
まるでフォアグラ育成所のようだ。
否、
あれは私にとっては目を覆い隠したくなるものの一つなので、今のこの状態とは違うと言えるが。
カウンターに5人、テーブル4組で満席になるこの狭い焼き鳥屋はこのへんじゃ旨くて有名だ。
テレビ出演を嫌う頑固親父の顔は鶏そっくりで、これまたファンの間では『鳥親父』と噂になっていた。
この店主と話ができたら幸せになれるジンクスまであり、話すチャンスを狙ってはいるが、これがまたなかなか口の開かない親父であった。
『話がある』と自分から誘っておいてこれか。
ムードもなんもあったもんじゃない。
右を見ればサラリーマンおやじ。
左を見てもサラリーマンおやじ。
紅一点な私だが、とりあえずあまり嬉しくない。
とはいえ、一度は行ってみたかった場所でもあるので、
食べる。
自分で焼くスタイルの少々めんどいやり方なんだけど、それがBBQ感覚で楽しいという理由からか、店の外は人の群れ、行列ですごいことになっている。
「羊君」
「待って。腹減ってるから食べたら話す」
「でも」
「いやまじでここの旨いからお前何も言わず食え」
「そ、そうか。わかった」
小一時間私たちは小さな会話ひとつすることなく無言で食べ続け、膨れたお腹をポンと叩き背もたれに背中をぐぐぐっと預けた。
「お腹いっぱい」
「だな」
「てかほんとおいしかった!」
「だろ」
「っはー。満腹満腹。でも聞きたいこといろいろあるからね」
「おお、分かってるよ、まず余韻に浸らせろ」
ぶっきらぼうに言った裏側にはなんだか決意表明みたいなものもちらりと垣間見れた。
分かってるならいいかと、ごちそうさまをしたにもかかわらずまだ残っている鳥に箸を伸ばし、焼けたそばからほいほい食べる。
そのうちにどちらが多く食べられるかを競うようになって、お腹いっぱいなのに気づけばむきになって鳥にネギに人参にと手当たり次第お腹に放り込んでいた。
ああ、こんなことがそういや昔もあったなぁって思い出してきて、なんだか懐かしいセピア色の思い出が頭の中に広がった。