帰ってきたライオン
頃的にいうと、吐き出す息が白く見え始め、木々が丸坊主になって寒さをあからさまに強調する頃。
そうだ、世間はすでに冬の装い。
気温は一桁台を順調にキープし、常に軽く体が震え始めた時、
にも関わらず、奴はまだうちにいた。
そして、この古い木造アパートの台所では寒さはしのげない。
でかいチワワが震えていて、潤んだ目を向けられたら(蹴っ飛ばし……)可哀想にもなった。
よって、仕方なく私の陣地にもしぶしぶいやいや入れてやることにした。
激安ホームセンターで買った安いちゃぶ台。300円のちゃぶ台は台所のすみに片付けられた。
色は白くそして丸い。それを部屋の真ん中に置き、左右で境界線を張る。
が、そんなことをしなくても松田氏は程よい距離を保ち、決して私の嫌がる行動には出てこなかった。
でも、用心に越したことはない。
ちゃぶ台はそこにいてもらう。
「こたつ」
土曜日の昼頃、パジャマのままでぼーっと静かにテレビを見ていた私の耳に聞きなれない言葉が入ってきた。
よって、無視。
再放送のお笑いを見ながら、たまにへへっと笑う。
「こたつ」
気のせいではないようだ。
そして、私の向かいには松田氏が同じようにパジャマで座っていて、テレビではなく、こっちを見ながら言っていることがなんとなく分かる。
そうか、私に向けての発信だったか。
「こたつが何か?」
お笑いから顔を剥がし、松田氏と目を合わせた。
眉が八の字になって、固まりながら正座をしている。
これではまるで私がいじめているようじゃないか。