帰ってきたライオン
お腹がすいたけど一人じゃ食欲がない。
そういえば松田氏も言っていたことがある。
『食事は一人より二人、大勢で食べた方がいい』とか、『ずっと待ってた』とか、そんなことを言っていた。
やっと今その意味が分かる。って言える。
「一人って寂しいな」
誰もいない部屋。言葉は重たい水を含んで床に落ちていった。湿ったままその辺をゆらゆらたゆたっている。
踏み潰す。そして、
鼻を鳴らして上を向いた。
寂しくない!
ぜんぜん大丈夫!
みんな忙しいんだから仕方ない!
そうだそうだ!
忙しいの!
と前向きに考えた。
が、
結局、二人とも帰ってこなかった。
そして私は一睡もできなかった。
布団に入ってはいるものの眠りに落ちることもなく、目はきらっきらにさえまくり、枕元に置いておいた電話のLINEには何一つ連絡はなかった。
松田氏からももちろん羊君からも。
昨日の夜眠りにつくまで握り合っていた手の温もりは遠く彼方に感じ、まるで絵空事のように思い宙に手をかざしてみた。
「起きよう」
今日は今日の仕事がある。
何はともあれ私情を仕事に持ち込むほど私はバカじゃないしこどもじゃない。
気持ちの切り替えくらいできる。
きっと元気はない。でも、やらなければならないことはやらなければならない。
のろのろと起き上がり、隣にだーれもいない部屋をぐるっと見回すと、案外広いことに気づく。
松田氏の荷物も羊君の荷物もある。
絶対今日は帰ってくるはずだと思い込んで、とりあえず仕事へ行く準備をした。