帰ってきたライオン
羊君は何をしていたかといえば、夜通しグリーンを探していた。
オーストラリアにいた当時に話していた日本のことで、グリーンが興味を持っていた場所、彼女が持っている日本の知識の中で行きたいと言っていた場所などを思い付くままに探し回っていた。
その間一度もグリーンからは連絡もなく音信不通。
どこで誰と、誰とはたぶん松田氏だと思っていたそうだけど、何をしているのか、サマンサも連れてきているのかいないのか、不安でたまらなかったそうだ。
かくいう私もそうだ。
松田氏は絶対そういうやましいことはしないと心のどこかで安心しきっていた。
でもよくよく考えれば松田氏だって男だ。それに彼のファンもたくさんいる。
告白してくる女子もたくさんいて、片っ端からフッているということも聞いたし、その理由だって同棲しているからみたいなことを言っていたとも聞いた。
『俺だってそんな長くは待てませんから』
言われた。けど、聞き流していた。
LINEをしても既読にすらならない。いつもなら読んだらすぐに返してくれるのに、昨夜から送っているLINEはすべてまだ未読。
どこでなにをしているのか、私だって不安でいっぱいだ。
羊君に連絡しようともやつは電話一本、LINE一本してこないから全く通信手段が無い。
私情を持ち込まない宣言しておいてあれだけど、ぜんぜん持ち込んじゃってるし。
感のいい上田さんには隠すこともできず全てを話すことになり、家を出るときから上田さんの力を借りたいと思っていたので躊躇なく話したんだけど。
黙って神妙に聞いてくれた上田さんは、
「さっさ仕事片付けてください」と真面目に言った。
「で、午前中に昨日の発注を一緒に片付けて、午後に中国からくるいつものやつは私一人でやっつけときますから。それに今日は午後、中国休みだから暇になるって神谷さん言ってましたよ」
「そうだけど。でももし莫大な量が来たら一人じゃ捌けないし、イレギュラーな問題きたらどうするの?」
「陳さんに今日は無理だから明日にしろと言います」
きっぱり言い放ってひとつコクリと顎を下げた。
「それにもしもすごい量が来たら迷わず明日の美桜さんの仕事に回しますから」
「そ、そうだよね」
「いつもみたいに忙しい日なら無理ですけど、今日は問題ないですよ。話は分かりました。美桜さんはやはり午後休とってそのへんちくりんな問題を片付けてくださいよ」
「へんちくりん言うな」
「それに、朝の私の情報網社内ニュースだと、二人とも来てないみたいですし」
「ハ? 松田氏も羊君も? てかそんなことまでやってんの?」
「ですです。このくらいしないといい奴は捕まえられないんですよ。狙って見つけたらグワっと食いつかないと誰かに持ってかれる」
「ほんと、その気持ちを少しでも分けてほしい。にしても、なにやってんだろう。今日休みだったかなあ」
「だーかーら、美桜さんに言ってないなら、それを見つけるのが美桜さんの午後のミッションじゃないですか! っとにトロすぎにもほどがありますよ」