帰ってきたライオン
誰がバンビ?
誰がライオン?
何この人たち。
「だから、こいつは草食の皮被ったライオンなんだな。木星なんてにわかにミステリアスな感じなのに、実は血生臭い猛獣」
びしっと指指した先にいた松田氏は顔色ひとつ変えない。
てか羊君、なんで松田氏の部屋に幽霊でるの知ってるんだろう。
松田氏は氷のような冷たい視線でしばらく羊君を眺め、
「で?」
結論を出させようとした。
「美桜」
「……はい」
羊君と面と向かう。まっすぐにぶつかる視線。
言葉を発しない羊君はじっと私の目を貫く。
私もじっとその目を見て、感じた。
『ごめん』
ひっくるめて『ごめん』という気持ちのみ伝わった。
今さっきの出来事は羊君を最後まで切り捨てないどうしようもない私を跳ね除けるためか。
もしくは松田氏のことをもっとちゃんと見ろとでも言いたいのか。
ともあれ、お前をそうさせたのは全て俺の我が儘で、俺の傲慢さがさせたこと。
俺たちはもう終わってる。
時間が経って、こっち帰ってきて分かった。気づいた。
お互い変わり始めている。
お互いに違う道を歩み始めている。
『だから、ごめん、勝手でごめん。俺が全て悪い』
私の感はいいことも悪いこともよく当たる。
この前心の奥底に落ちて行った四角くて重い箱は、心の奥の奥底、暗くて見えないところに影となって完璧に沈んで消えた。
それは、羊君との思い出だ。
先に目をやる。
自信たっぷりに私たちのやり取りを見ている松田氏がいて、私の視線に気づくと、いつも通りに優しく笑んだ。
いつもと違って態度はスーパーエルサイズだけど。
「俺、ちょっとトイレ行って口洗ってくるからちょっと待ってて。ほら、こいつに一方的に殴られたから血ー出てるし。ちょーいてーし。くっそ、手加減しろよ」
びしっと指指した先の松田氏はばつが悪そうに頭をかいた。
「すみませんね」
これまたいつも通りの優しい声で、「待ってますからどうぞ」と付け加えた。羊君はなんともゆったりとトイレに向かい背を向けて、私はそれを見送ったあと、松田氏に向き合った。
「あ、あの」