帰ってきたライオン
あれから6ヶ月が経ち、頃は冷たい空気みなぎる極寒の冬。
吸い込む空気は冷たく肺に刺さり、吐き出す息は出した側から氷の粒に変わるような錯覚に陥る。
色で言ったらグレイな時分。
きれいになったこたつ布団をかぶったこたつももちろんある。
松田氏の部屋は引き払い、本格的に私の部屋に住み出した。
大屋さんは霊媒師なるものを招き入れ、松田氏が出た後、南無南無南無南無と祓ってもらっていた。
それをうすら寒い目で見る私たちに、
『あらあらどうもお二人さん元気? いや参った。今ね、こうして祓ってもらってんだけどね、本当にいたんだよ。しかも部屋の……』
最後はごにょごにょと濁し、とんとととんと廊下を軽く踏み鳴らして視線を下にやり、にたっと笑んでこっちを見た。
完全に何かを知っていた風な、怪しい笑み。
まさかの?
ゴクリと唾を飲み、私たちは無言で見つめあう。
「無理。考えたくない」
「ここ出ましょう。もういいです。美桜さんとこまだ契約の残りがあるなら俺払いますからさっさと出ましょう」
「出る。もう無理。絶対いるもん」
「俺の部屋だけだったらいいんですけど」
「危ないよね」
「そういやこのアパート、俺たちの他、大家さんしか見たこと無いし……」
生唾飲み込み、合致したら早い。
翌週末にはアパートの前に引越し業者のトラックをつけた。
なぜだかそこには大家さんの姿は無く、挨拶をしに行っても誰も部屋から出て来なかった。
そしておかしなことに、人のいる気配もしなかった。
忘れよう。
そして、心機一転、新しいお家での生活を始めることに集中しよう。
このアパートは思い出が多すぎる。
だから出来れば出たくなかったんだけど、部屋の下にほにゃららが埋まっていたなんてそんな事実を提示されたら怖くてかなわない。
新しいところで1から私たちの思い出を築き上げていこう。
いいことも悪いこともきっとたくさん出てくるだろう。
それでも松田氏は絶対に裏切らない。
もちろん私も裏切らない。
二人が同じ気持ちなら、なんだって乗り越えられると感じた。
絶対の自信がそこにある。
これからは松田氏のことをたくさん考えて、彼の愛情に答えられるようにしていきたい。
そう、私の感は怖いほどに当たる。
いいことも悪いこともなんでもかんでも当たってしまうのだ。
松田氏はいつものように柔らかい笑みで、今、私たちは手を繋ぎながら二人で一つで歩んでいる。
道を間違わないように、ゆっくりと、隣にいる人を信じながら、お互いに思いやりあって。