帰ってきたライオン
「かんぱーい」
カツカツとあちらこちらでグラスをぶつける音が聞こえ、中ジョッキのビールを喉をならして半分ほど飲み干した。
大衆居酒屋たぬきは今日も満員御礼、大入りヤッホーだ。
たぬきのような店主もいつにも増して盛大的に笑顔のサービスをよこしてくる。
仕事後に開かれた食事会という名目の飲み会は会費三千円で無制限。
ご贔屓にしているところなのもあってか店主もよくしてくれる。
座敷を貸しきり、結局、上田さん、松田氏、私を始め会社の人(会ったことない人も含む)10人が勢揃いした。男女半々が集まった。
どういうわけか座席も指定されていて、上座に課長、チーフ、以下諸々。
私の隣は上田さんと営業部の女子3人。見た目今時の女子。話し方も然り。私たちとは関わりが全くないので話すこともない。よって、挨拶のみしてあとは上田さんと話ながら枝豆を鞘から押し出すことに精をだした。
男子諸君は年齢もばらばらだけどみんな顔見知りなようで和気あいあいとしている。
営業部の飲み会にちゃっかり加わったような形になっているように見えなくもない。が、上田さんはなに食わぬ顔で唐揚げに箸をぶっさした。
「やっぱ唐揚げとルービー、この組合わせ最高」
「上田さん、この中に狙ってる人いないんだね」
「分かります?」
「とても分かりやすい」
「はははは。でもこれも顔売るために仕方ないんですよねー」
「顔売る?」
「はい。だってこれ、営業部の女子に頼まれただけで私ただの幹事ですから」
「ねにそれ、私何も聞いてないよ」
「そりゃそうですよ。言ったら来ないじゃないですか。それに、美桜さんは私の先輩なんですから来てくれてもいいじゃないですか」
「それおかしくない? 先輩とかそれ関係なくない? 別に私いなくてもいいじゃん」
「ぜんぜんおかしくないです。だってこれ……」
最初から仕組まれていた。
話を聞いていくと、これは営業部の、今、上田さんの隣に座っている女子に頼まれてセッティングした飲み会ということだ。
しかも、狙いは松田氏。
3人とも松田氏狙いだという。
当の松田氏は『行かない』と言っていたそうだが、私も行くよという上田さんのしかけにまんまと引っ掛かったというわけだ。
どうりで気合いの入った格好に化粧なわけだ。
で、男性陣はその3人の女子狙い。どこかで嗅ぎ付けてきたこの話にほいほい乗っかってきた。
上田さんと私はおまけだ。
いや、私はおまけどころじゃない。
『あなた誰?』状態だろう。
もしかしたら『上田さんのおまけ』扱いかもしれない。