帰ってきたライオン

ビールとつまみでお腹も脹れ、ほどよくほんのりサーモン色に体が変わったところで皆様の気持ちもほぐれてきた。

私も普段缶ビール一本でほろよいになりぽかぽかしてくるエコな体なため、今日は少々飲みすぎた。

上座側に座っている松田氏はワイシャツの腕を捲り上げてジョッキを持ち、男性陣とで談笑している。

傍らの女子三人組はちらちらと松田氏の方を見てはきゃっきゃっと蜜の含まれた会話を興じていた。

時計を見た。
まだ9時前だ。確か今日は毎週欠かさず見ているドラマが放送される日だ。ぼちぼち帰りたい。

と思っている矢先に三人組の女子の一人、茶髪巻き毛が意を決したように席を立ち、自分のグラスを持参し私の後ろを通り抜け、反対側へと移動した。

そして、『ちょーっと失礼しまーす』とピンクな声で挨拶すると、するりと松田氏とその隣の……名前が分からないので男性Aとしよう。そのAの隣に割り込んだ。

なんだ、君、松田さん狙い? などと酔いに合わせてつっこんだことを言った男性Aは残りの二人に焦点を定め、すんなりと席を譲った。

茶髪巻き毛の行動を皮切りに、男性陣と女性陣がサンドイッチなかんじになり、なにやら合コンスタイルになった。

相変わらず上田さんと私はその輪から外れ、二人でテーブルの上に鎮座する料理を片っ端からやっつけていた。

もはや色気もへったくれもない。

そもそも、食事会という名目だから来たので、ひたすら食べる。たぬきの店主が作る料理はやはり旨い。そしてリーズナブルな値段で懐に優しい。

「松田さーん、ビール飲んでますー?」

ピンクな声は茶髪巻き毛から。
松田氏は珍しく酔っ払っているのかへらへらしながら「飲んでますよ。飲んでますか?」などと言う声が聞こえてきた。

「飲んでますけどもう酔っちゃったかもー」というお決まりの甘い言葉を吐く茶髪巻き毛はおもむろに腕を松田氏の腕に絡めた。

回りの男性陣からは羨ましがり同々の声、それに便乗し茶髪巻き毛は更にべったりと張り付いた。

なんだ、なんだこのどきどきは。体が熱くてなんだか動悸が激しい。動悸息切れの求心。薬が欲しくなるばくばくさ加減だ。

松田氏はその腕を振りほどくことなくなすがままで、片手にはジョッキを離さず持っている。

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