帰ってきたライオン
「あ、すいません。当たっちゃいました?」
わざとだろうが。
わざと蹴ったよ今、分かってる。だって、後ろけっこう空いてるしぶつかるわけないし。
「……」
「おいおい、松田ー、女の子蹴るなよー」
がはははと笑うチーフはまたも私の肩に手を回してこようとした。
ところで、私とチーフの間に「なんか楽しそうじゃないですかチーフ、両手に花で」と、無理矢理割って入ってきた。チーフはチーフで「だろっ」と今度は松田氏と話に花を咲かせ始めた。
なんなんだ松田氏。
あっち行けみたいなかんじで押してきて。眉間に皺がよる。
「美桜さ~ん」
にったらにったら笑ってこっちを見ている上田さんは、意味深に笑っているが、もんくの一つも言おうと口を開いたところで「成田さん」と声をかけられた。茶髪の巻き毛に。
「成田さんて、松田さんと仲いいんですか?」
「えーと、誰だっけ、ごめん私名前知らないんだけど」
「なんか会社でも一緒にいたりするから仲良しさんなのかなーって」
「あー……そう?」
「……そっか、よかった。松田さんて、いいですよねー。優しいし、頼れるっていうかあ」
「えー、でも松田さんて確か好きな人いましたよねー?」
なんと、上田さんの爆弾発言。
あなたの発言力は威力あるからやめなさいと心で思い、
「え、そうなの?」便乗した。てかびっくりした。
松田氏、好きな人いるの?
てかそれならうちじゃなくてその人の所に行けばいいのに。ダメじゃんそれ。だから、
「上田さん」とたしなめるように机をとんとんと指で叩いた。間髪入れず、
「美桜さん、まじでほんと勘弁してくださいよね。また明後日な方向で考えたでしょ。その顔は絶対そう」
理解不能な発言に私も巻き毛もきょとんとした。
私がグラスに手を伸ばしたのと同時に、茶髪巻き毛は私から上田さんに的を絞り、声はいつもと変わらずぶりぶりだけど、目付きはするどくなっている。
そんな茶髪巻き毛をうまいこといなし、腕時計をあからさまに見た。
宴もたけなわ、そろそろ帰りたいらしい。
それには私も激しく同意した。
同じように腕時計の時間を確認して残りのビールをぐいっと空けた。
ついでに残りの枝豆も急いで食べた。