帰ってきたライオン

年の瀬はすぐそこ。次の角を曲がったところらへんでくだをまいている。

空気も乾燥し始め、冷たい空気が鼻にツンと響き、涙が溢れる頃の夜半、寝る前には枕元に濡れたタオルを置かなければ翌日には完璧に喉がやられている。加湿器代わりだ。

ちゃんとした加湿器?

ふん。

そんな高価なものは買えない。

そしてこの絶え間なく降り注ぐ冷たい空気を素敵な空気に変えるのは不可能に近い。
加湿器が先に根をあげるだろう。

よって、タオルを緩めに絞ってコンビニのビニール袋の上に乗っけて寝れば簡単に加湿タオルになる。

しかしながら体調はすこぶる悪い。
鼻水は垂れ流し鼻の奥はずっと痛い。節々は痛むし体はダルい

。冬休みに入り、本当だったら東北の実家に帰るところだが、こんな体調のまま帰ってもそこは雪国。

ややしたら死亡フラグか立つ。

今年は泣く泣くこっちに残ることにした。
お正月の御節も甘酒もお屠蘇も何もかも、そう、楽しみにしていた何もかもを台無しにして私は一人寂しくこの部屋で年を越す。

半纏に毛糸の靴下。おでこには冷えピタ、鼻にはティッシュ。
冷蔵庫にはプリンとポカリ、栄養ドリンクが揃っている。

ややしばらくすれば外にでられるようになるだろう。そうしたら食材を買ってうどんでも作って食べよう。少しずつ体力をつけて完治する頃には仕事が始まる。

考えれば考えるほど切なくなるが、仕方ないと割りきるしかない。

松田氏は朝から出掛けていていない。久しぶりに一人になると、なかなか静かなものだ。

時折外を通る車のエンジン音とすずめの鳴く声、こどもがきゃーきゃー言いながらぱたぱた走る音。大家さんが外の植木に水を撒く水の音と近所の犬が吠える声。

部屋の中は静かで無音。
松田氏の借地側には大きめのリュック。帰省する準備だろうか。いや、部屋に帰れないんだからこれからか。

ああ、そうか、松田氏だって実家があるんだから帰るよね。ん? 松田氏の実家ってどこだっけ。そういや聞いたことがないからそこのところはまったく分からない。

何かの話のついでに確か都内だって言っていたのはうっすらうろ覚えで頭にあるけど、はたしてどこだったのかまでは思い出せない。

考えると頭が痛くなるのでやめようと、瞼を閉じた。
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