帰ってきたライオン
陰鬱。
気鬱。
霊鬱。
陰陰滅滅。
湿っぽい。暗い。じっとりしている。
私の後ろにいる松田氏は、べったりと私の背中に張り付いている。『やっぱりやめましょうよ』とか、『早く戻りましょうよ』とか、『大人しくいさせときましょうよ』などと女々しいことこの上ない。
松田氏が料理に使う為に購入したという少しお高い粗塩は袋のまんま持ち出し、今それは私の左手に力強く握りしめられている。これから先、外に内に撒かれるのに使われる粗塩にはその塩の役目をちゃんとさせてやれなくて申し訳なく思う。
背中に張り付いている松田氏を半ば引きずるようにし、ずかずかと部屋へ入って電気をつけた。薄暗い電気がついたが部屋は冷たく湿っぽくて嫌な気持ちになる。
少しばかり呼吸を止めて窓にしっかりかかっているブルーのカーテンを思いきり開けた。
窓ガラスは結露し水滴が水玉模様を描いていた。鍵を開け、勢いよく窓を音を立てて開けた。
とたん、冷たく澄んだ新年の空気が待ってましたとばかりに我先へと部屋の中へ入り込み隅々まで洗う。
窓を開けたら以外と明るい。
そして、風通りもそこそこいい。空気の入れ替えさえすればいれなくもないだろうと思う。
「松田氏はいるものをそのリュックに詰めるんでしょ」
空っぽのリュックは松田氏の陣地に置いてあったもの。中身は無くすっからかん。私が部屋の中を隈無く見ている間に松田氏は荷物を詰めるという話でまとまっている。
思い出したとばかりに背中からリュックをおろし、服のかかっているラックへ向かいながらリュックのチャックをチーっと開けていた。それを横目に私は粗塩の袋の中に手を突っ込んだ。
掴めるだけ掴み、まずは部屋の中から外へ向けて撒いてみた。
そう、鬼は外のあれに習っている。
次に量を少なくし、部屋の四角に向かって撒いてみた。
そう、福は内のあれに習っている。
それを数回繰り返す私を変な目で見ている松田氏のことは軽く無視し、おばけの形跡を探しにかかった。