帰ってきたライオン
午後一でミーティングが入ったから悪いんだけど定時でランチ行っちゃってくれる?
と朝一で神谷さんに言われてからというもの、今日は一日うきうきだ。
ここ何年もランチタイムに外に出られた試しがない。
今日を、この素晴らしきチャンスを逃したらもうこの会社を辞めるまでランチを楽しむことはできないだろう。
勿論行きますと即答し、時計をみたら11時45分。
わくわくする。あと15分でOLランチを楽しめる。どこに行こうか。
上田さんに聞いたら会社を出たところに安くて早くて美味しいアジアンダイニングがあると言っていた。
そこのランチ定食はボリュームもあるからすっごく食べたい日には絶対行くと言っていた。
そこだな。
がっつり食べたい気分。
いや、冬は毎年たくさん食べてしまう。
私の体は脂肪で防寒をしているのだろうか。
同じものを食べている松田氏はぜんぜん太らないのに、私だけがどんどんふくよかになっていく。
帰ったらひとつ、もんくを言ってやろう。
パソコンの時計が正午をお知らせした。
あちらこちらの席から立ち上がってロッカールームへ行く波ができはじめた。
遅れを取らないように急いで席を立つが、向かいの上田さんに今はまだ出ないほうがいいと言われた。
時間差で出た方が混まないし、運が良ければエレベーターもがらがらですよと情報をもらい、10分遅らすことにした。
それが、運命の別れ道になった。
やはり、私の勘は当たる。
近いうちに羊君に会えると感じた『感(勘)』は、ここに来て当たることになる。
いつもと同じエレベーターホール前。
教えてもらった情報通り、廊下にいる人はまばらになっていて、本当に運よくエレベーター前には私一人。
お財布と電話と化粧品を入れたポーチの中身を確認するのに下を向いて中身を確かめていた。
ふと人の気配がして顔を上げてそこを見た。
バチっと電気が走った。
脳天から雷が落ちて、指先足先まで一瞬で痺れて、お腹を焼き尽くすように熱くなった。
きっと、目の前にいる浅黒く焼けて長めの茶髪の見た目チャラい男も同じ気持ちになった、と思う。
見れば分かる。
だって、5年前まで一緒にいた人なんだから。