帰ってきたライオン
「疲れたねー」
「ですね」
車の中でぐてっとして少し休憩をして、車が暖まったら出ようということに自然となり、ここでまた車に置きっぱなしにしたあの話が頭の中に入り込んできた。
聞くなら今しかない。
「松田氏」
「はい」
エアコンがなかなか暖まらないので肩を丸めて小さくなっている松田氏はなんだかウサギのように見える。
「あのさ」
「はい」
「この前の話なんだけど」
「この前? なんの話ですか」
忘れてるのか。きれいにさっぱりと忘れているのか。私の悩み損か。
「いやほら羊君がうちに来た最初の日に言ったさ」
「ああ」
「あのさ、あの時ほら、あのー、なんてゆーのかつい言っちゃったわけでね、そのあと気にはなってたんだけどなかなか言うタイミングがなくてそれで」
「はい」
「……はいって……えーとそのなんだ、覚えてる?」
「覚えてますよ」
「で」
「え? あの通りなんじゃないんですか? 違うの?」
「違うって何が違うの?」
「は?」
「え?」
無言で見つめ合う私たちはしばし個々で頭を整理するのに時間がかかった。
「えーと、成田さんと俺の関係ってことでいいいんですよね」
「そゆこと」
「えー……と、同居人?」
「……」
なるほど。そう思ってたってことか。
やはり私の考えすぎか。なんか、ちょっと軽くショックを受けてる。
『同居してるんだって』
社食の女子たちが言ってた話を思いだした。
「それだけ?」
「成田さん」
体ごとこちらに向けた松田氏はいつになく真剣で、でもなんだか悲しそうな目をしているような気もして、私は私で何を言っていいのか分からないし、自分がどうしたいのかも正直分かってないってことにも気が付いた。
ここで何か確信にせまったことを言われても、言われたら、
なんて言えばいいんだろう。
なんて返すんだろう。私もしかしたら本当に最低なことしているのかもしれない。
そんな気がなんとなーくだけど、する。