帰ってきたライオン

「成田さんの言いたいことはよく分かりますよ。でも、その心の中を整理してから言ったほうがいいと思います。ほら、顔に全て書いてありますし」

顔に書いてある?
くそ、消えろ! と、どうでもいいことを考えながらも、
全部お見通しってことか。私が今何を思い何を考えてどうしたらいいのかわからないところまでお見通しなわけか。

今の松田氏の答えはそうとしかとらえようがない。


「まだ揺れてるんでしょ、羊さんのこと」

「……そんなことは」

「ないとは言えないでしょ」

「だってこの前神様に全部持ってってもらったし」

「それならまだちょっと心に荷物が残ってるとか。完璧には気持ち切り替わってないでしょ」

「いやでも松田氏のこと好きだよ」



アホみたいに開いた口をやんわり閉じて、とりあえずコマ送り同様反対側に顔を向け、窓から外を眺めてみた。

あ、うん、いい天気だー。

しかしだ、全身からどばーっと脂汗だらだらで、白目をむき、心臓は跳ね飛び回っている。捕まえようにもすばしっこく飛び跳ねやがる。

松田氏の視線が後頭部らへんにちくっと突き刺さるけど、今こそ使いたい。

地球全体バリア。

あ、いや、松田氏抜きの地球全体バリアで。

「成田さん」

明後日な方向の思考を遮るように松田氏の言葉が空を切った。

「イェス」

「ぷっ。イェスってなんですか。まあ、あれですよ、ありがとうございます」

「え」コンマ何秒の早さで振り返った。

「俺も好きですよ」

「そ……そうなんだー」そうなの? なんか落ち着くような安心感が体に、

「でも好きなだけです。じゃ、行きましょうか」

「え?」

言いながらエンジンを回し、心地よい振動が体に伝わったが、いつもなら心地よい、でも今はこの振動は直接心臓に響いて不安要素となる。

好きなだけです? それだけ? てかなんだ今の言葉。
それだけってどういうことだろう。それで終わりってどういうことだ。

なんだ、このもやもや。晴れない空のようで、なんだか気持ちが悪い。

「変なこと聞くけど、ねえ、もしかして松田氏って隠れ肉食系?」

「話の要点完全にずれてますが、なんですかそのカクレクマノミ的な言い方」

「見た目草食系なのになんか言うことけっこう肉食じゃない?」

「えー、そうですか? でも俺」

「俺っていうし」

「いいじゃないですかそこは。てか今まで一緒にいてテニスやったりサッカーやったりそういったスポーツするの見たことあります?」

「ない」

「ですよね。俺、休みの日は極力家にいたいタイプですよ、インドアもいいとこ。体動かすの苦手ですし。こたつで丸くなってたい」

「草食だよね?」

「まさかの疑問形? ああ……そうかそうか、わかりました。じゃあ、例えばね」

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