帰ってきたライオン
俺が今ここで成田さんに付き合いましょうと言うとします。で、成田さんはなんて答えますか?
たぶん迷いますよね。羊さんのこともまだはっきりしていないし、でもきっと俺のことも嫌いじゃないでしょ?
でも揺れてるのは事実だから答えに詰まる。
そうするとこれから先、一緒にいるの苦痛になりますよね。
言っときますけど俺、部屋戻る気ないですよ。大家さんに『ここ出るから』宣言されて出られるわけないじゃないですか。追い出すようなそんな鬼の所業、できないと信じてますよ成田さん。
で、こうなると考えた場合、つまり、ぎくしゃくした中で共に生活をすることになる。
そりゃあもう精神的に苦痛としか言いようがないですよ。なにかされるかも! 今までとは空気違うし! でもどうにもできない。
俺出ていきませんよ。おばけいるし俺の部屋。
となりますよね。
「そうじゃないですか?」
「おっしゃる通りだと思うでございますますます」
その通りだ。今言われた通りでなんら間違いない。
この優柔不断な私のためにこんな問題が勃発する。
それに申し訳ないが今の松田氏の解説で私の心の中の乱雑さも片付いた。
「あ、でも振り回してるとか思わないでくださいね。俺もそこまで人良くないんで」
「と申しますと」
「羊さんとどうなるか見ものじゃないですか。あははは。でほら、まだ成田さんの気持ちの中には羊さんにふらふら揺れてるのあるし、決定的な何かを見つけたりした場合……」
「場合?」
「なぐさめますから大丈夫ですよ。ははははは」
笑いながら言うセリフかね。
本当にこの人が草食なのかすら怪しくなってきた。もしかしたら草食の皮かぶった悪魔かもしれない。
「羊さんのことちゃんと見て結論出したほうがいいですよ、俺もそんなに長くは待てませんけど」
「松田氏」
「はい」
「本当にありがとう。たぶんお礼言うところじゃないと思うんですけど」
「ですね。超お人好しな気がする俺」
「超最低な気がする私」
「あ、気づきました?」
「え」
「嘘ですよ」
もしかしたら本当に本当にこの人は草食じゃないんじゃ……という疑惑がちらりと舞台に顔をのぞかせた。
でも、松田氏は好きでいてくれる。もちろん私が松田氏のことを好きなことも分かっている。
そして、羊君のことをひきずっていることにも気づいている。
だから羊君のことをはっきりさせることを大前提に考えてということだ。
ただひとつ気になることがあって、何かを知っている風な言い方なところが気になるところではある。
松田氏、羊君の何かを知っているような、分かっているような、そんな気がした。
そう、私の感は当たる。
いいことにしろ悪いことにしろ、とりあえず当たってしまうのだ。