帰ってきたライオン

「さて、洗濯は終わったし、一足お先にお風呂を頂いてゆったりしよう」

背伸びついでに欠伸もし、お風呂に入ろうとしたところで玄関をノックする音が聞こえた。

ドア越しに人が立っているのが分かる。

郵便屋さんか隣の住人か、郵便屋さんの場合はいつも『郵便でーす』といった声が聞こえるわけだが、今回は聞こえない。隣の人だったら『隣の者ですけどー』といった挨拶もあるだろう。しかし同じく掛け声はない。

それに、隣のうちの人は見たことがない。

「はーい」

今行くからちょっと待って。と心で言い、

「はいはい」

ドアを開けるとそこには誰もいない。
人の代わりに地面に荷物らしき箱が置いてあった。

白い袋に入った四角い箱。
その上にメモが貼ってあって宛名は羊君だ。
みみずののたくったような英語表記。

何故ここの住所を知っているのか疑問はあるが、この箱の中身は羊君に当てたもので間違いない。
しかし差出人が書いていない。
裏っ返しても何一つ手がかりになるものはなかった。


とりあえずこたつの上に置いてみた。
そこから箱と面と向かって30分が経過した。
手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返し、開けていいものか、帰ってくるのを待っていたほうがいいのかで悩んでいる。

あまり重くなかった。
適度な重さはあったけど、1500円あたりのハードカバーの本1冊くらいの重さ。本かなって思ったけどどうやらそうじゃなさそうだ。

そもそも本をこうやって箱に入れて置いていくはずがない。ということは違う何かだ。

振ってみた。
固いものが箱にぶつかる音がした。その音とその稼働域から四角い何かだろうと推測。

次に頭に入ってくるのは、

『どちらさまからのものですか?』

女だろう。
こういうことをするのはほぼほぼ女子で間違いない。男子でこんなことをするとしたらほらあれだ、組合の方々くらいだろう。と、勝手な妄想を始めて、

いや、組合の方々だってこんなことしないか。だってこれ、私がたまたまいたからいいけど、いたずらされて誰かに持っていかれる可能性だって無きにしもあらずだ。

と、ねじまげた考えで要らぬ不安を払拭しようとした。

危なっかしい。

羊君同様、危なっかしいことをする人だと小さくため息ををついた。

< 85 / 164 >

この作品をシェア

pagetop