帰ってきたライオン
「あらら」
手元を覗いた松田氏は小さくそんな声を発し、羊君の顔をじっと見た。
しばしの無言。
話をしていてるときにいきなり無言になるってことはその時に神様が通ったと言われるが、間違いなくここに神様はいない。
この沈黙は嵐の前の静けさなのかもしれない。
「あー……見ちゃった?」
ぶっ飛ばしていいですか。
踵落とし食らわせていいですか。
回し蹴り3連発入っていいですか。
金〇潰ししていですか。
何悲しそうな顔してんだこの野郎、私を何年も待たせておいてこいつは勝手にオージーと結婚して子供まで作っていたということか。
そんなことをしてしれっとここに住んでるあんたの神経を疑う。どんな神経しているのかその詰まってもいない頭をかっ開いて中の脳みそぐっちゃぐっちゃにしてやろうか。
怒りが手に伝わり、右拳に力が入る。
「羊さん、これいったい誰ですか? 友達? じゃないか」
「友達なんかじゃないでしょこれ! どうみても家族じゃん! 待ってろよとか言っといて自分は外国人の奥さん作ってしかも子供まで作ってこんな笑顔で写真に写って、何やってんの? それでさ、わざわざ写真送ってきたりしてさ、どういうことこれ、そんなに私のこと馬鹿にして楽しい?」
「美桜」
「最低最低とは思ってたけど、本当に最低最悪だね。それでこうやって一緒に住んでるのって、ほんと神経疑う。頭、おかしいんじゃないの! なんでそんなことできるの!」
「だから美桜ちょっと待てって」
「今まで言わなかったけどさ、5年間私がどれだけ悲しい思いしたか分かってる?
一方的にメールを送りつけてるみたいに思ってすっごい落ち込んでもいたし、連絡無いから何かあったのかなって心配になって、でも実家教えてもらってなかったし、会社にだって、違う部署なんだから教えられないって言われるの分かってたから何もできなかった。
それで、帰ってきてるのに連絡もなく家にも顔出さないってそれ、ありえなくない?! なんかすごい惨めな気持ちになったよ。その気持ちなんで抑えてたか、分かってる?!」
言い切った。
こんなこと言うつもりなかったけど、こんなの見せつけられたら落ち着いてなんていられない。
そんなに大人じゃないし、冷静になんてなれるわけない。
私、そこまで人良くない。