帰ってきたライオン
息が上がって倒れそう。
午前中からばたばた動いてたからわりと体は疲れているらしい。
「で、これ、誰ですか」
冷静な松田氏は写真立てを優しく羊君に返し、改めて、真面目な顔をして羊君を見た。
「……サマンサ」
「はあ、そうですか。で、どちらの名前ですか?」
「こども」
「で、どういう関係なんですか? どうみてもこれ羊さんのこどもじゃないですよね。ということは、誰でしょう?」
「なに言ってんの松田氏、だって……」
違うのになんで三人で写ってるわけないじゃん。
羊君のこどもじゃないならなんでこんなもの送りつけてくるの?
訳がわからず、松田氏と羊君の顔を交互に見た。
「だから、世話になってた家の娘さんでシングルマザーなんだよ。そんでだ、いろいろあってずっとやっかいになってたから、それにサマンサが生まれた時から俺もずっといたから俺になついてたんだよ」
「待ってよ、じゃ、これ、羊君のこどもじゃないの?」
「ちげーわ」
「成田さん、よく見てくださいね、こどもの髪の毛今のところうっすら金髪ですが、瞳もグリーンぽいようなブルーだし、ハーフだったらこうはなりませんよ」
「そう、なの?」
「はい、日本人とのハーフだったらほぼほぼこうはなりません。髪の毛はだいたいはブラウン系統でしょうか、それからオッドアイは別として瞳の色もこうはなりません」
「オッドアイ?」
「はい、左右瞳の色の違う人ってごくまれにいるんです。それをオッドアイといいます。遺伝的なものが多いそうですが、稀に後天的なものもあるそうです」
ということは、私また早とちりした。
羊君にひどいこと言った。
最低なのは私じゃないかと思ったりもした。
「いや、美桜の言うことも分かるよ。早く言わなかった俺にも責任はあるし、言わなきゃとは……思ってた」
「じゃ、電話の着信画面の写真も……」
着信画面には外人の女性とこどもが出るように設定してあった。
この前私が見たものはそれだ。
「は?! お前いつ電話見たのそれ、ひどくね?」
「いや違う違う違う! 正確には見えちゃったって言った方のがいいかも」
「見えた?」
「そうそう、けっこう前だけど、羊君の電話に着信あったときにさ、ちらっと見えちゃったの、ちらーっとだよ。見たくて見た訳じゃないよほんとに」
「ああ、そっかそゆことか。悪かったな」
謝られたらこっちが申し訳なくなる。私の方がわめき散らしちゃったんだし。
でもね、『見たの?』って言われた時、私じゃない誰かを守ったような感じがして悲しくなった。
気のせいかもしれないけど、なかなかとっても心に重石が乗せられたような錯覚に陥った。