帰ってきたライオン
オーストラリアに渡った時にお世話になっていた家に当時まだ妊娠中の娘がいた。名前をグリーンという。
お腹のこどもの父親は麻薬に手を出してとっ捕まり、外の世界が覗けない塀の中にお勤め中ということで、グリーンは早々に別れを決め、離婚届を叩きつけた。
が、そこではこどもを身籠っていることは一切触れなかった。
その時点でもうシングルマザーとしてやっていこうと決意を固めていたらしい。
彼女の両親も娘が決めたことならそれでいいと、至って外よりな考え方の為、すんなりと受け入れ、一緒に生活することを許してくれたということだ。
そんなところに羊君が飛び込み参加のようにお世話になることになったわけだが、羊君のあの性格、グリーン的には特段困ってなぞいなかったに違いないが彼はきっと勝手に、
『グリーンはなんて可哀想なんだ。お腹にこどもがいるのに頼れるパートナーは塀の中、お父さんもけっこうな年だ。こうなったら俺がなんとかするしかない。これも何かの縁だ』
という結論に至ったに違いない。
私の感は本当に本当によく当たる。
勝手に責任を感じ、グリーンの力になってやらないとと思って、それからの10ヶ月は仕事をしながら、育児関係の本を読みあさり、こどもの育てかたの基本という本を読んだり勉強したりと慌ただしく生活をしていたということだ。
もちろん、こどもが生まれてからのほうが忙しくなる。なんせ初めての子育てだ、手探り状態だし未知の世界だ。
両親は極力手を貸さず、助けを求めてきたら手を貸すといったスタンスで、グリーンにしても頼れるのは羊君しかいなかった。
無駄に責任感の強い羊君のことだ、頼られたら助けるだろう。
なんとしても助ける。
そんなところがあるのでこどもに慣れるまでは二人して一緒に頑張っていたそうだ。
そんなことがあったからこその音信不通。
子育てに忙しかったというのがその理由だった。(自分のこどもじゃないけど)
怒る気にもなれない。
もし私が羊君の立場だったらと考えると、女だから考え方はいくらか違うけど、やはり手助けしたくなるだろう。
そのうちに情がわいてきて、当初はグリーンの家にいるプログラムは2ヶ月で終わる予定だった。
これは羊君が『せっかく行くんだから現地の生活も垣間見たい』とワガママを会社に言って実現したことなんだけど。
それが、気づけばずるずると居座ることになったそうだ。
その間に塀の中のパートナー(彼氏)は出てきていたが、彼は彼で全く連絡を寄越してこないそうだ。
風の噂によるとまたふらふらと町のギャンググループに戻っていったという反省のない事実が聞こえてきた。