帰ってきたライオン
そんなこんなでばたばたしていたから私に連絡をする暇すらなかったそうだ。
もうそんなどうしようもない理由を聞いたら、溜め息しか出ない。
そこまで言って羊君はずずずーっとコーヒーを飲み干して、松田氏におかわりを申し出た。
松田氏は何も言わずにコーヒーカップを受けとるとそのまま台所へ行った。
三人が三人無言になって、それぞれに考えていたんだろう、しかし、羊君は私とどうこうしたいとか、よりを戻そうとかそんなこと一言も言わない。
5年も音信不通にしたことについてもなんや謝りもしない。
そんな奇想天外な出来事があったんだから連絡できなかったんだ、俺は悪くない。
これもすべて運命の成したことだ。そうだ、どうにもできなかったんだ。神の気分の問題だ。という典型。
大きく譲ってそうだとしてもだ、形だけでも誠意を見せて貰いたい。
目の前でみかんを甘くしようと力任せにこねくりまわしている男には何を言っても無駄にしか思えないけど。
「というわけで、これは俺のこどもじゃなくてグリーンのこどもだから」
「もう分かったよ。それに……さっきは私も悪かったよ。でもちゃんと言って欲しかった。まあ、もう、あれだね、こどもに罪はないしね、ちゃんと大きくなってよかったね」と言っておいた。他にかけることばがない。
「おー。一時はどうなるかと思ったけどな。軌道に乗って良かったよ。てか結局写真誰が持ってきたのか分かんないんだよな?」
軌道に乗るとかその言い方。
私もなんでこんなお人好しでバカなのかって考えると、
月日が経っているからだ。これが何ヵ月とかそんなもんだったらきっとぶちギレしてるに違いない。
「それなんだけど、ノックされて出てみたはいいけど誰もいなかったんだよね。開けたらそこには誰もいなくて下にその箱が置いてあったの。やっぱ何回考えてみてもそれだけだった」
「なにそれ」
「それは私が聞きたい。羊君のほうが心当たりあると思うんだけど。グリーン……グリーンさんて人にここの住所を教えたの?」
「……忘れた」
「……」
聞いた私が悪かった。そんな昔のことなんて思い出せないよってことでしょどうせ。
「でも、羊さんが教えたからこそのお届け物ですよね」
しれっとまた核心をついた松田氏は淹れてきたコーヒーを羊君に渡し、私には紅茶を、自分は昆布茶を用意してそれぞれの定位置に落ち着いた。
「記憶にないな」
「羊君はどっかの政治家かっ!」
「ふっ。うまいねそれ」
「うまいこと一つも言ってないけど」
「そんな怒んなよ。どこの誰だか知らねえけどそいつがここに来れたならきっとあれだよ、俺が教えたんだろ」
「教えたの?」
「忘れた」
「まじでぶっ飛ばす」
こたつのテーブルをばんと叩き、羊君に殴りかかろうとしたところで松田氏の止めが入り、羊君はわざとらしく頭を抑えて逃げていた。
それがまた余計に腹が立つポイントでもあった。