帰ってきたライオン
結局送り主はグリーンだろうってことでほぼほぼ納得したが、ここに運んできた人が誰なのかは分からずじまい。
羊君も検討もつかないということで、私たちのいるところでグリーンさんに電話をすることはなかった。
相変わらず土日になると帰ってこない。
たぶんその間に何かしら連絡をしているんだろうと思うとイラっとくるんだけど、ぐっと堪えた。
松田氏はといえばもう何も言わずにいつも通り、難しい顔をして電卓を叩いている。
完全なる主夫モードだ。
ゴールデンウィークの登山計画はいつの間にか消え去った。
写真立て事件以来、何も言葉にはしないが羊君と私の間にあった見えない壁が今までよりも濃くうっすらとどっかりと出来上がってしまい、なんとなく居心地のいいものではなかった。
せっかく買ったウエアーと靴とザックは紙袋に入れたまま、買ったままの状態で羊君の陣地の隅に置きっぱなしになっている。
視界にいつも入っているのでなんとも思わなかったけど、それを見てちょっと考えると切なくなってきた。
確か、買い物から帰ってきたときってすごく嬉しそうな顔をしてたよなとか、これからは登山具の買い占めに走るとか、普通に着ててもお洒落なのたくさんあった。あそこはいい。とか、目をキラキラさせて話していたっけ。
そういうのを考えると多少無理してでも出掛ければよかったかなとか思って、ため息が出る。
暗黙の了解となっていて、登山の話はタブーになっている空気感も、もやもやしてしっくりこない。
写真立ては知らないうちに姿を消し、このうちの中から消え去った。
どこへやったのかは知らないけど、あえて聞こうとも思わない。
うるさく言ったところで言うような人でもないし、それがきっかけになって出ていかれたら、寝覚めも悪い。
それに、羊君への気持ちの半分はもう自分から離れてしまっているということも感じ取れていた。
きっとこの気持ちは羊君も同じだと思う。
一度離れた相手とは、時間が経ってからもう一度出会ってももう昔のような流れにはならないということも知った。