帰ってきたライオン
メールがきた。
プライベート用のパソコン宛に見知らぬ人からメールが届いていた。
迷惑メールに入らなかった部類のものなのできっと知っている人か昔の友人からだろうと思って開いてみたが、全て英語。私の知り合いに英語を操る人はいない。
パソコンの前で腕を組んで首を傾げる。体はこたつの中。
すでに五月も終わろうとしているのにまだこたつがのさばっている。
松田氏は『もういいかげんしまいましょう。こたつ布団だってクリーニングに出したいので。
ほら、成田さんと羊さんがこぼしてばっかりいるから汚れてますし』と数回片付けようと試みるのだが、私と羊君の攻防に伏し、仕方なく諦めている状態だ。
これから梅雨が待ち受けている。
肌寒くなったりするではないか。できればそれが終わるまでは出しっぱなしでお願いしたいと再三お願いをしてはいるが、聞く耳はどうやらないらしい。
こたつを撤収するチャンスを虎視眈々とうかがっているのがひしひしと感じられるが、
「読めない」
全く分からない。
何かの暗号としか思えない。
こんなよく分からないものに意味があるなんて、ほんと世の中おかしい。
と思うも、ここはネットの翻訳サイトにお世話になろう。暗号解読のように一字一字調べて組み立てるのも面倒くさい。
「ただいま」
松田氏が買い物袋を両手にたくさん持って帰ってきた。反射的にこたつから出て荷物を持つのを手伝いに行く。
「ありがとうございます。重たいのにすみません」
律儀にお礼なんか言う松田氏は手伝うといつも『ありがとう』と言う。
野菜、肉、たまご、お菓子、チーズ、いつも買わないようなジャンクなものまで買い込んできた。
「買い物行くなら一緒に行ったのに」
「いえいえ、帰りがけにふらっと行こうと思っただけなので、そんなにいろいろなものは買ってませんから」
「そう?」
「……近いうちにいつものところへ行きたいのでその時はぜひつきあってください」
「行く行く行く行く行く行く絶対に行くね!」
「ははは」
そう、ただ単に買い物に行きたかっただけともいう。
これもまんまと読まれている。