帰ってきたライオン

「てか、こんなに買ってきてどうしたの? なんかやるの?」

「いいえ、特には考えてませんよ」

「すごい量だけど」


金曜日の夜。
今日は20時半には仕事が終わり、遅くなったので外で食事をしてくると松田氏にLINEを送り、駅の中にある蕎麦屋でたぬき蕎麦を食べて帰ってきた。

で、この理解不能なメールを眺めているわけだ。

羊君を会社で探してはみたがどこにもいなかった。
なんとか、というか、嫌がるのを無理矢理聞き出したLINEに同じことを打ってはみたが既読にすらなっていない。

こういう連絡事項にしか使わないし、他に用事のない時には連絡はしないから教えなさいと、松田氏と私とで詰めよって、ようやく聞き出すことに成功した。

連絡事項にしか使わないんだから、その連絡事項には返信をしなければ意味がないのに。

まあ、羊君ならやりかねない。
きっと自分のこと以外においてはどうでもいいと思っているにちがいない。


冷蔵庫に野菜や肉を入れ、お菓子はお菓子専用の棚に並べ、調味料のストックは流しの下に置いた。

帰ってきたら絶対にすること、それは、手洗いうがいだ。
松田氏はそれらを毎日かかすことなくする。それにつられ、羊君と私もそれが日課となってしまった。

スーツから部屋着に着替えると昆布茶を持ってこたつに入ってきた松田氏は、パソコンに向かって格闘する私をややしばらく眺め、思い立ったように、

「何してるんですか? 手伝いましょうか?」

と言いながら昆布茶で舌を濡らした。

「うん。頼む」

「はい」

ギブった。
翻訳サイトを使っても、とんでもない訳され方をしてきて意味が分からない。

「あー、英文メールですね」

「読めるの?」

「読めないと仕事になりませんから」

「毎日英文見てるの?」

「仕事ですよ。仕事のやりとりは英語ですから」

「すげー!」

「すごいと言ってくださいね」

「すごい。ごいすー。すごい尊敬する。そんなの知らなかったよー」

「まあ、言ってないですし、成田さんと俺の仕事って接点ないですしね。で、えーと……」


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