彼の襟元にキスマーク。
入ってきたのは、三年後輩にあたる男だった。
シャツを腕まで捲り、その右手にはスマートフォンが握られている。軽快な動きでオフィスへと入ってくる彼は、そのまま続けて口を開く。
「神崎さん、飲み会来なかったんですか。」
「うん、なんか、……疲れてて。」
自分で聞いておきながら、ふうん、興味が無さそうに言うと、自分のデスクに備え付けてある引きだしを開ける。
何やら探している様子だった。
「忘れ物?」
「はい、あ、ありました。」
ほら、と見せる彼を見ると、左手にはボールペンが握られていた。
……ボールペン?これだけのために戻ってきたのか?
そんな思いが顔に表れていたのか、彼は何故か拗ねたように口を尖らす。
「俺これじゃないと嫌なんですよ、これ一回使ったら浮気出来なくて。」
一瞬、胸がドキンとなった。
……違う、そういう意味じゃない、と自分に言い聞かせる。
「ふうん、あってよかったね。」
「はい。」