彼の襟元にキスマーク。
満足そうにボールペンを胸ポケットへ収めると、扉へと引き返す。
かと思ったら、何故かこちらへと歩いてくる。
「どうしたの?」
「いや、普段神崎さんとゆっくり喋ることなんて出来ないので、ちょっとゆっくりしていこうかと。」
「ゆっくりって、」
私、もう帰る予定だったんだけど。
そんな思いとは裏腹に、彼は隣のデスクの椅子を引っ張りだし、そこへ腰を下ろす。
「喋るってこんなおばさんと喋っても楽しくないでしょ。」
「おばさんって、たった三歳差でしょ。」
……確かにそうだけど。
隣に座る彼を見る。二重だと思っていた目は、この距離で見つめると奥二重だった。
あぁ、元々の大きな目をしているから二重だと思い込んでいたのだ、と気付く。
ふと視線を落とすと、あるものが目に入った。
「ねぇ、襟に何かついてるよ。」
えっ?と襟を直視しようとしているが、その位置だと直接自分で見ることは不可能だ。