ココロトタマシイ
「わざわざ来てくれてありがとな!
靖も大丈夫そうだし、もう帰りな。
美麗ちゃんだって、いろいろあって疲れたろ?」


優しく笑いかけながら言った彼の言葉に、彼女は苦笑しながら素直に頷いた。


「はい…」


「じゃあ家まで送ってくよ」


「ありがとうございます。
…でも少しだけ、南くんと話をさせてもらえませんか?」


いきなりのことに少し驚いた。

昨日のことでも聞く気なのか?

それにしても、昨日殺されかけた奴と二人で話そうなんて。

……馬鹿だな。


「ほんとに…ほんとに少しでいいんです!
………だめ、ですか?」


健次は少し何かを考えると、僕を見た。

美麗ちゃんはこう言ってるけど…お前はいいのか?


そうアイコンタクトを受けると、僕はそっと頷いた。

彼もそれに頷き返すと、彼女に笑顔を向けた。


「いいぜ。俺は下で待ってる」


「ありがとうございます!!」


彼女は深々と頭を下げると、健次が出ていくのを見送った。


彼が出ていくと、彼女はゆっくりこっちを向く。

やや俯きながら僕に近付くと、今にも消えそうな声で呟いた。


「ごめんね……」


「…何が?」


「怪我のこと…」


そんなこと気にしてんのか。

全く…お節介に続いてお人好しだな。


「別に…あんたのせいじゃない。
怪我だってそんな痛みは…――」


「うそ」


その声は小さかったけど、確かにはっきりと僕の言葉を遮った。

少し驚いて彼女の顔を見上げると。

眉尻を下げて目に涙を浮かべていた。

握られた拳は微かに震えていて、涙が頬を伝う。

それを乱暴に袖で拭うと、涙声で言い切った。


「怪我…ほんとは痛いくせに。
嘘つき!南くんの馬鹿っ!!」


「…………」


泣いてるくせに怒る上に馬鹿呼ばわり。

泣くのか怒るのか謝るのか。

どれか一つにして欲しいもんだね。


「何でそんなこと分かるわけ?あんたが怪我してるわけじゃあるまいし」


「分かるの…信じてもらえるか分からないけど」


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