ココロトタマシイ
けど、すぐに呆れた表情になって、口角だけを上げた。
「…肝に銘じておくよ」
そう言い残して歩いて行く彼の後ろ姿を、私はただ見送ることしかできなかった。
………絶対変なやつって思われたよね…。
最後呆れた顔してたし。
私の必死に紡いだ言葉は、彼から聞けば意味の分からないもので。
私からすれば、どうしても彼に伝えたかったのに。
それをうまく伝えられない自分にため息が零れる。
ふと辺りを見回すと、芽依の姿が見えない。
多分、いきなり走り出した私に気を遣って先に帰ったんだろう。
「帰ろ……」
一人呟きながら空を見上げると、どんよりとした厚い雲が空を覆っていた。
まるで、今の私の心のように。
なんて漫画みたいなことを考えながら。
気分転換も兼ねて、いつもとは違う道へと足を向けた。
…この時、いつもの道で帰ればよかったのかもしれない。
それ以前に、南くんに声をかけなければよかったのかもしれない。
いやそれよりも………。
…なんて後悔してても埒が明かないけど。
もし、いつも通り帰っていれば、あんな厄介事に巻き込まれなかったのに。
…でも、逆を言うと。
あの時遠回りをしなければ、自分のことをちゃんと知らなかった。
南くんのことも。
この力のことも。
そんなこと、全く知らなかったこの時の私は。
「もう6月か……そろそろプール始まるな」
そんな呑気なことを考えながら歩いていた。