カッコイイオトコ
駅ビルの中に入ると、化粧室でハンカチを濡らし、私に貸してくれた。

「これで傷口拭いておきなさい。絆創膏は持ってないけど、それくらいなら放っておいても大丈夫でしょ」

「……ありがとうございます」

ユカリさんの意外な優しさに素直にお礼を言うと、ハンカチを受け取った。

「それで? 私に何か用だったの?」

「ほえ?」

傷口を拭きながら、間抜けな声を出す。

「私を追いかけて来たんでしょ? 振り返ったら貴女が凄い形相で追いかけてくるから、びっくりしたわ」

「そ、そんな凄い顔していましたか……」

「ええ」

つん、と澄まして答えた後、ユカリさんは首を傾げた。サラリ、と黒髪が揺れる。

「で、何かしら? ……ハルのこと?」

「えーと……」

考えてみたけれど、何も言葉が見つからなかった。

あまりにも真っ白な頭の中にちょっとうろたえる。

「え、えと……あの、偶然ユカリさんを見かけまして、気がついたら追いかけていました」

ユカリさんはその後、しばらく無言だった。

もしかしたら、私の次の言葉を待ってくれていたのかもしれない。

でもなかなか私が話し出さないので……。

「まさか、本当にそれだけ?」

と、眉を顰めた。
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