私を、好きになれば良かったんだよ


私はその日、チョコを持って隣のクラスに向かった。


開いていた扉からチラリと中の様子をうかがう。


まだ何人も残っている教室の中にその姿を見つけた。


「恭ちゃん」


小さく呟いただけのはずだったのに、
大きなその身体の持ち主はのっそりと私を振り向く。


よっこらせ、とまるでお爺ちゃんのように椅子から立ち上がると、教室のドアまで来てくれた。


「清乃(きよの)」


ちまたでは"腰にくる低音ボイス"とかなかなか際どいことを囁かれてるくらいに良い声の持ち主。
それが私の幼馴染、田ノ浦恭吾(たのうらきょうご)だ。


「……どした」


加えていうなら彼はクソが付くくらいの無口だ。
必要最低限のこと以外喋らない。


じつに面白味のない男である。



< 1 / 12 >

この作品をシェア

pagetop