私を、好きになれば良かったんだよ
*
私はその日、チョコを持って隣のクラスに向かった。
開いていた扉からチラリと中の様子をうかがう。
まだ何人も残っている教室の中にその姿を見つけた。
「恭ちゃん」
小さく呟いただけのはずだったのに、
大きなその身体の持ち主はのっそりと私を振り向く。
よっこらせ、とまるでお爺ちゃんのように椅子から立ち上がると、教室のドアまで来てくれた。
「清乃(きよの)」
ちまたでは"腰にくる低音ボイス"とかなかなか際どいことを囁かれてるくらいに良い声の持ち主。
それが私の幼馴染、田ノ浦恭吾(たのうらきょうご)だ。
「……どした」
加えていうなら彼はクソが付くくらいの無口だ。
必要最低限のこと以外喋らない。
じつに面白味のない男である。