私を、好きになれば良かったんだよ


妙な沈黙と一向に私の前を動こうとしない恭吾に耐えきれなくなったのは葛西さんだった。


キッと私と恭吾を睨んだかと思うと


「もう、いい。
今日は友達と遊んで帰る」


ふん、とそっぽを向いてずかずかと足を鳴らして去って行った。


「……いいの、あれ」


ぼそ、と尋ねると彼もまた「ああ」とだけ答える。


「恭ちゃん女の子の趣味悪いよ」


そんなふうに負け惜しみみたいなことを言うと恭吾は困ったように笑った。


「……そうか?」


「そうだよ」


「じゃあ、どんな奴を好きになれば良かった?」


ぴく、と肩が震えた。
そんなの、どう答えればいいのか分からない。


彼を見上げる。


無口なはずの男は今日はいつになく饒舌だと思った。


複雑な色を宿した瞳には、困ったような私の顔が映っている。
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