私を、好きになれば良かったんだよ
「……そんな素振り一度だって見せたことないくせに」
私の頬に彼の無骨な手が伸びてくる。
頬を包んだ大きな手。昔からこの手は私を慰めるときだけ触れてくる。
「バカなのは、恭ちゃんのほうだもん……」
「……」
「私を好きなくせに別な女の子と付き合っちゃった恭ちゃんが一番、ばか、なんだもん…」
最後はとうとう涙が溢れてきて声がかすれて小さくなる。
えぐえぐと泣きじゃくり始めた私の腕を慌ててひいて、恭吾は人気のない階段へと連れていく。
おろおろと自分のポケットを探り始め、目的のものが見つからなかったのか今度は私のポケットに無遠慮に手を突っ込んでくる。