あなたを待つ夜
「こっち向いて」

豊の言葉に優子は小さく首を横に振った。

すると豊は手を離し、優子の前に立った。

肩を引き寄せられ、唇が重なりそうになった瞬間、優子は「ダメですよ」と小さく叫んだ。

「渋谷さんには奥さんが居るじゃないですか。こんなことしたら絶対ダメです」

夢でも見てるんじゃないんだろうか。

こんなことが現実で起こっているなんて信じられない。

「自分には確かに家庭があるよ。嫁も居るし、子供だって居る。ずっと自分と闘ってた。優子ちゃんのことを好きにならないようにって。でも無理だった。俺、優子ちゃんが好きだよ」

それがはじまりだった。

優子はあまりにも容易く、スルスルと不倫と言う世界に引きずり込まれていった。
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