あなたを待つ夜
ホテルに着いて部屋に入った瞬間、豊はすぐに優子の体を後ろから羽交い絞めにしながらコートを脱がせてきた。

「待って、先にシャワー浴びたい」

「分かったよ」

優子がシャワーから戻ると、豊は煙草を吸いながら誰かと電話していた。

「うん、今名古屋だよ。あー、うん。明日は何時になるかな。まだ分からないから、また連絡入れるよ」

優子はハッとした。

そして極力物音を立てないように、ゆっくりひっそりと踵を返した。

しばらくして豊が電話を切った様子がしたので、再びベッドに戻った。

豊はスマートフォンを眺めながら、三本目の煙草を吸っていた。

「嫁から何件も電話来ててさ。出張で名古屋に居るって言ったのに。さすがに出なくちゃと思って出たよ」

「そっか」

「そんな顔すんなよ」

豊は吸っていた煙草を灰皿に擦り付け、火を消した。
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