あなたを待つ夜
「渋谷さんと不倫関係にあったことは事実です」

「もちろん彼が結婚して子供も居ることは知ってたんだよね」

優子は静かに頷いた。

「あの人、あなたに誘惑されたって言ってたの」

嘘でしょ……。

ずっと信じていた豊に裏切られた……。

優子の絶望感は形容しがたいものだった。

「……本当にごめんなさい」

「あんたさあ、ごめんなさいで許されると思ってんの?」

「そうは思ってません」

次の瞬間、優子の頬に成美の平手打ちが飛んできた。

「……ごめんなさい。本当にごめんなさい」

「もうやめてよ!謝ったって無駄って言ってるでしょ」

優子はもはや泣くことしかできなかった。

それでも容赦無い成美の怒声が飛んでくる。

隣の隣の席に座っていた大学生風の男がヤバイと思ったのか、そそくさと席を離れて店を後にしていった。

「なんで泣いてんの?泣きたいのはこっちだよ!馬鹿じゃないの。

人の旦那を誘惑して、奪おうとしたんでしょ。自分のしたことが分かる?

でも完全にあんたの負けだよ。あんたは豊に遊ばれたんだから。

豊が家庭を捨てるとでも思ったの?

あんたから慰謝料取ることもできるんだよ。今の会社に居れるとも思わないでよ。

絶対に許さない」

成美は飲みかけのコーヒーが入ったマグカップを持ってイスから立ち上がった。
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