0×0

「えーと…はい?」


理解不能。
余りにも現実離れし過ぎている。半笑いになりながらも、零は聞き返した。


「いや、だから、死神」


少年はもう一度繰り返す。聞けば聞くほど、嘘臭さい。


「あー…そっかー…死神なんだー。じゃあ、ばいばい!」


これ以上、こいつといたら、何されるか分からない。
零はさっと踵を返すと、一目散に駆け出した。


「あ、おい!待てよ!」


後方で呼び止める声が聞こえたが、気にせずに走り続ける。

「顔は好みなのになぁ…」
勿体無い。
ポツリと零は呟く。
瞳にはもう、涙は浮かんでいなかった。








【第一総合大学病院】


その中の一室から、怒声が響いた。


「零さん!勝手に病室抜け出したちゃ駄目って言ってるでしょう!!」


ちょこん、とベッドの上に正座している零を叱りつける看護婦。
一人部屋な為、それを観戦する者は居ない。
この部屋に移動が決まった時、心置きなく叱れる、と意気込んでいた看護婦の姿を零は思い出していた。


「すいませんでしたー。以後気をつけまーす」

「…反省する気はさらさら無いようね…」


看護婦は一つ溜め息を吐いて、胸ポケットから体温計を取り出し、零に渡した。


「うん。無いよー」


それを受け取り、しっかりと脇に挟む。


「貴女、自分の体をもう少し気遣いなさい?
それでも一応、病人なのよ」


クリップボードに挟んである用紙に、さらさらと何事かを書き込みながら、看護婦は言う。


「一応じゃない。立派な病人だもん」

「威張る事じゃありません!」


胸を張って答えた零の頭に、コツン、とクリップボードが当たった。


「取りあえず、病室は抜け出さない事!分かった?」

「はいはい。
分かりましたー」


体温計を脇から抜いて、看護婦に渡すと、零はベッドから降りた。


「あら、何処か行くの?」
「うん。売店行ってきます」

財布を片手に、零は病室を出た。
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