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「えーと…はい?」
理解不能。
余りにも現実離れし過ぎている。半笑いになりながらも、零は聞き返した。
「いや、だから、死神」
少年はもう一度繰り返す。聞けば聞くほど、嘘臭さい。
「あー…そっかー…死神なんだー。じゃあ、ばいばい!」
これ以上、こいつといたら、何されるか分からない。
零はさっと踵を返すと、一目散に駆け出した。
「あ、おい!待てよ!」
後方で呼び止める声が聞こえたが、気にせずに走り続ける。
「顔は好みなのになぁ…」
勿体無い。
ポツリと零は呟く。
瞳にはもう、涙は浮かんでいなかった。
【第一総合大学病院】
その中の一室から、怒声が響いた。
「零さん!勝手に病室抜け出したちゃ駄目って言ってるでしょう!!」
ちょこん、とベッドの上に正座している零を叱りつける看護婦。
一人部屋な為、それを観戦する者は居ない。
この部屋に移動が決まった時、心置きなく叱れる、と意気込んでいた看護婦の姿を零は思い出していた。
「すいませんでしたー。以後気をつけまーす」
「…反省する気はさらさら無いようね…」
看護婦は一つ溜め息を吐いて、胸ポケットから体温計を取り出し、零に渡した。
「うん。無いよー」
それを受け取り、しっかりと脇に挟む。
「貴女、自分の体をもう少し気遣いなさい?
それでも一応、病人なのよ」
クリップボードに挟んである用紙に、さらさらと何事かを書き込みながら、看護婦は言う。
「一応じゃない。立派な病人だもん」
「威張る事じゃありません!」
胸を張って答えた零の頭に、コツン、とクリップボードが当たった。
「取りあえず、病室は抜け出さない事!分かった?」
「はいはい。
分かりましたー」
体温計を脇から抜いて、看護婦に渡すと、零はベッドから降りた。
「あら、何処か行くの?」
「うん。売店行ってきます」
財布を片手に、零は病室を出た。