0×0

「ふんふん♪」


鼻歌混じりに、廊下を歩く。
零自身、鼻歌を歌う程、陽気では無いのだが、気を紛らわせていないと、不安と悲しみに、押しつぶされそうだった。
あれやこれやと考えていた方が、まだ、気が紛れる。


ふと、零はその場に立ち止まった。
左手の窓から見える、虹色に煌めく海を眺める。砂浜には、元気に駆けずり回る幼稚園児達。
それ達から急いで目を逸らし、零はゆっくりと歩を進めた。


「おー、良い景色だなー」

零の後方から、声が聞こえた。歩みを止める。
一瞬、先程の少年の姿が、零の頭を掠めた。


「いやいや、流石に無い。此処は病院。あいつが居るはずない」


自分に言い聞かせる様に呟くと、零は振り返らずに、売店へ向けて歩き出す。


「そのあいつが、此処にいるんだけど。歓迎してくれないわけ?」


また後方から聞こえた声に、零は硬直した。
ありえない。あいつなわけ無い。
否定を胸に、ゆっくりと振り返る。

そこには想像通りの少年が、口端を釣り上げながら立っていた。
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