僕らのはなし。①
それから、皆それぞれビーチチェアに寝転がって寝たり、ビーチボールで遊んだり、泳いだりした。
「あっ、」
1人で泳いでいると、足が吊って上手く泳げなくなった。
ブクブクと水が入ってきて、必死に腕を動かすけど沈みそうで、このままじゃヤバイのに助けを呼ぶ事も出来ない。
お願い、誰か気づいて助けて!!
このままじゃもたない…。
もう息も続かなくて、気を失いそうになった時、誰かが後ろから引っ張って水の外に顔を出す形でそのまま泳いで運んでくれた。
結城先輩?
相手にボヤける視線を向けると、長めの綺麗な茶髪が見えた。
「湊ー!!
大丈夫??」
「しっかり息しろ??」
「もう大丈夫だからな!!」
「ウッ…ゲホゲホ!!」
浜辺まで戻ってくると皆が駆け寄ってきてくれて、私をビーチチェアまで一緒に運びながらそう声を掛けてくれた。
「ありがとうございました!!」
柚瑠が結城先輩にお礼を言ってるのを聞きつつ、私は咳き込みながらも必死に空気を吸い込みながら、涙が溜まる目に少し私達から離れて呆然と此方を見ている伊崎が映った。
何かこのまま消えてしまいそうな儚い雰囲気を放ちながら、彼はそのまま何処かに歩いて行った。
「えっ、泳げない?」
「どうしてですか??」
少し休んで落ち着いたので、さっき様子が変だった伊崎の事を聞いてみた。
「これはあんまり誰にも言わないでほしいんだけど。
昔、アイツが小さい頃に誘拐されたんだ。
犯人の目的はアイツの親への復讐で、身代金の提案ものまなかった。
アイツを手足縛ったまま海に放り込んだんだ。」
「たまたま、母親がアイツにGPS付きの靴を履かせてたお蔭で、直ぐに追跡出来て、放り込んだ直後に引き上げる事が出来たけど、間に合わなかったら。」
「犯人は??」
「その場で取り押さえられた。」
「そう。」
それを聞いて一安心だけど、当時の幼い伊崎の気持ちを想うとどれだけ怖かったか。
私達は何も言えなかった。
それから、伊崎が呼びに来るまで私達はまた各々好きなように泳いだり寝たりしていた。